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大阪高等裁判所 昭和44年(ネ)671号 判決

主文

原判決を次の通り変更する。

控訴人等は、被控訴人に対し連帯して金八八九、五一七円及び之に対する昭和四四年一〇月二〇日以降完済に至る迄年六分の割合による金員を支払え。

被控訴人その余の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審を通じてこれを八分しその一を控訴人等、その余を被控訴人の負担とし附帯控訴費用は控訴人等の負担とする。

この判決は被控訴人勝訴部分に限り被控訴人において、各三〇〇、〇〇〇円の担保を供するときは仮りに執行できる。

事実

控訴人等(附帯被控訴人等)訴訟代理人は「原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との、附帯控訴につき附帯控訴棄却の各判決を求め、被控訴人(附帯控訴人)控訴代理人は「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人等の負担とする。」との判決竝びに、附帯控訴として仮執行宣言を求めた。

(被控訴人の主張)

一、被控訴会社は、婦人服地等の織物の卸売を業とする会社であり、控訴会社は繊維製品の販売を業とする会社であるが、昭和四二年二月一〇日被控訴会社は控訴会社を買主として織物等の商品を継続して売渡す、買主において手形不渡があつたとき、支払を停止したとき、その他買主に不信行為があつたとき等の場合は期限の利益を失い債務残額を即時支払うこと等を約した継続的取引契約を結び、控訴人津田は右契約に基き控訴会社が被控訴会社に対し負担する取引上の債務につき連帯保証をした。

二、右取引契約に基いて被控訴会社は控訴会社に対し同四二年二月一六日より同年五月一〇日迄七、五二五、二一九円相当の毛織物類を売渡し、被控訴会社は控訴会社に対し商品返品額歩引額等一〇〇、二二四円を控訴した七、四二四、九九五円の商品代金債権を有するところ、控訴会社は同四二年五月一〇日他の仕入業者に支払うべき手形を不渡にし、同日その営業所を閉鎖し同月一五日債権者会議において支払不能の事実を発表した。

三、仍て前記約旨に従つて控訴会社の被控訴会社に対し負担する売掛代金債務は期限の利益を失つたから、被控訴会社は控訴会社及び控訴人津田に対し右売掛代金及び之に対する昭和四二年五月一七日以降完済に至る迄商法所定年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

四、(一) 被控訴会社が控訴会社に対する債権額の八〇%につき権利抛棄をしたとの控訴人等の主張事実は否認する。

控訴人等主張の債権者委員会においては各債権者の債権額のうち八〇%は之を棚上げし、当分の間その債権について権利行使をしないこととし、残り二〇%については残余財産を処分して分配することとしたもので、右の八〇%について債務免除をしたものではない。

(二) 仮りに確定債権額のうち八〇%についての権利の不行使が債務免除の趣旨であるとしても

(1)  前記債権者委員会の席上、控訴人津田は被控訴会社が控訴会社に対し有する確定債権全額を各債権者の権利行使の制限とは別個に連帯保証人として支払うことを出席債権者全員の前で認めている。そして一度保証債務として現実化した債務を債権者に対し主たる債務者とは別個独立に支払うことを約した連帯保証人には附従性の理論の適用なく、独立して債務支払の義務を負担するものと言うべく、控訴人津田は被控訴会社に対し七、四二四、九九五円の支払義務がある。

(2)  仮りに右主張が認められないとしても、債権者委員会の席上控訴会社の被控訴会社に対する債務を控訴人津田が支払うことを約したことは被控訴人に対し債務引受をなしたものと言うべきである。

(3)  右の主張が認められないとしても、原審では控訴人等は連帯保証のみを否認し、当審に至り免除を主張するに及んだのであるから、右の如き主張は著しく信義に反すると共に、時機に遅れた防禦方法であるから却下されるべきである。

(控訴人等の答弁竝びに主張)

一、被控訴会社主張事実一、二は控訴人津田が控訴会社の負担する債務を連帯保証したとの点を除き認める。

控訴人津田は被控訴会社主張の連帯保証をなした事実はない。被控訴会社、控訴会社間の基本取引契約に際し、控訴人津田は控訴会社の代表取締役として立会つたが、控訴会社の連帯保証人となることを拒否し、契約書作成にあたつても単に立会人として署名捺印したに過ぎない。

二、(一) 被控訴会社は、昭和四二年六月一五日開催の控訴会社債権者委員会において控訴会社に対する被控訴会社主張の確定債権額七、四二四、九九五円の八〇%即ち五、九三九、九九六円について権利抛棄をしたから、被控訴会社の有する債権額は一、四八四、九九九円であるところ、右債権者委員会の決議に基いて残余財産の分配として同年六月二一日前記確定債権額の五%、同年九月二〇日、三・〇二%に該る三七一、二五〇円及び二二四、二三二円合計五九五、四八二円の支払を受けたから、残存債務は之を控除すれば八八九、五一七円となる。

(二) 右の残存債務については、右債権者委員会の決議により出世払債務となつているからそれは自然債務にほかならず、被控訴会社は残存債務についても控訴会社に対し裁判上訴求することができない。

三、又控訴人津田については仮りに同控訴人が控訴会社の被控訴会社に対する取引上の債務につき連帯保証をなした事実があつたとしても、控訴会社の右残存債務が裁判上訴求できない自然債務である以上保証債務の附従性に則り控訴人津田の連帯債務も自然債務となり、被控訴会社は控訴人津田に対しても残存債務を訴求することができない。

四、控訴人津田が債権者委員会において各債権者の権利行使の制限とは別個に控訴会社の被控訴会社に対する債務の支払を約し、或はその債務の引受をなしたとの被控訴人主張事実は否認する。

(証拠関係)(省略)

理由

一、被控訴人主張一、二の事実は控訴人津田の連帯保証の事実を除き当事者間に争がなく、成立に争がない甲第一号証と原審証人平野知豫の証言によると、控訴人津田は被控訴会社に対し、控訴会社の被控訴会社に対する債務につき連帯保証をした事実が認められる。甲第一号証の売買基本契約書の控訴人津田の署名捺印が連帯保証人とある横になされてなく、その一行上の、控訴会社の記名押印のある下に之と並んでなされていることも右認定の妨げとはならないし、又右認定に牴触する控訴会社代表者本人尋問の結果は前記証拠と対比して措信できない。

二、仍て控訴人等の抗弁について判断する。

(一)  控訴会社主張の日債権者委員会が開催され決議がなされたこと、右委員会に被控訴会社代理人も出席し決議に参加したことは弁論の全趣旨から争がないものと認められるところ、成立に争のない甲第四号証、当審証人岩井松平の証言によると、右委員会の決議の内容は第一条として、昭和四二年五月一〇日現在の総債権額のうち八〇%は切捨て債権抛棄し以後当該債権に対する権利を主張しない、第二条として、同年六月一五日現在の控訴会社の残存資産は控訴会社引受の為替手形と交換に各債権額に応じ平等に分配する、第三条として、被控訴会社の控訴会社に対する債権額は売買基本契約書による控訴人津田の連帯保証書を保持するため前記第一条より第七条迄は之を認めるが、控訴人津田より債権を取立てることは出席全委員が之を認める、被控訴会社の債権総額は七、四二四、九九五円であると議事録上記載されていること、右第三条の意味するところは、当時控訴会社の見返り資産は総債務額の一〇%にも満たないものと予想されたため、八〇%の債権抛棄をした後の二〇%については、見返り資産を処分して配当をしても尚二〇%の全額の完済は不可能であると考えられたが、配当後の残額については之を免除することは控訴会社に対し寛大に失するとして出世払とすることに定められた趣旨であること、右決議にあたつては控訴人津田を退席させ、決議がなされた後控訴人津田を入室させ、議事録に基き決議内容を読聞せたこと、が認められる。

(二)  右認定事実によれば、控訴会社の総債務額の八〇%は免除されたものと認められ、被控訴会社主張の如く単に支払を猶予する所謂棚上げではなかつたものと認めざるを得ない。

残余の二〇%については、控訴会社の見返り資産を処分して配当をした後の残額については、之を出世払とする旨の決議がなされているが、既に債務を負担している者の債務の弁済について出世払の附款がつけられている場合は特段の事情がない限り、弁済期限の猶予とみるべきであり、控訴会社の再建が成功したとき、又は成功不能が確定したとき弁済の見込がなくなつたものとして、期限は到来する趣旨であると解するのが相当であり、前記第三条の趣旨に鑑みても特段の事情は認められない。之を控訴人等主張の如く自然債務と解する余地はなく、この点に関しては控訴人等の抗弁は理由がない。

(三)  しかるときは、被控訴会社は確定債権額七、四二四、九九五円の八〇%、五、九三九、九九六円の弁済は之を免除したのであるから残債務は一、四八四、九九九円となるところ、成立に争のない乙第二乃至第四号証と当審証人岩井松平の証言によれば、被控訴会社は残余財産の配当として同四二年六月二一日確定債権額の五%にあたる三七一、二五〇円、同年九月二〇日同様三・〇二%にあたる二二四、二三二円の弁済を受けたことが認められるから、控訴会社が支払の責に任ずべき残債務は八八九、五一七円となる。そして右残額については控訴会社財産を以てしては弁済は不能であり、前記甲第四号証により認められる新会社設立による再建は、弁論の全趣旨により功を奏しなかつたことが推認されるところ、少くとも、当審において控訴人等が債務免除を主張した準備書面が、被控訴人に到達したことが記録上明かである昭和四四年一〇月二〇日当時において弁済の見込がなくなり残額の弁済期が到来したものと認めるのが相当である。

(四)  ところで保証債務は主たる債務の変更に応じその内容を変更し、常に現時における主たる債務を担保すべきものであり、連帯保証の場合も主たる債務者について生じた事由は全てその効力を連帯保証人に及ぼすものであるから、控訴人津田も控訴会社が支払の責に任すべき前記債務の限度で控訴会社と連帯して支払義務があると言うべきである。前認定の債権者委員会の決議第八条の存在も右の判断に影響を及ぼすものではない。

被控訴会社は控訴人津田が主たる債務者である控訴会社とは別個独立に前記決議第八条の趣旨に従つて確定債権額全額の支払を約した或は控訴会社の確定債務全額を引受けたと主張するが、さきに認定した通り控訴人津田は右決議の内容を読聞かせられたに止り、その際別個に被控訴会社の主張するような意思表示をなしたことを肯認するに足りる証拠はない。当審証人岩井松平の証言中には控訴人津田は決議の内容を読聞かされた際何年かかつても支払う旨述べていたとする部分はあるが、それは債権者等が債権の行使について寛大な措置をとつたことに対し、謝意を表するための儀礼的な言辞と認めるのが相当であつて、被控訴会社に対し控訴会社の債務全額の支払乃至引受を約したものとは認め難い。被控訴会社の右主張は採用の限りではない。

被控訴会社は控訴人等の当審における債務免除等の主張は信義則に反し、又時機に遅れたものであると主張するが、本件弁論の経過に徴してもその主張は採用できない。

三、してみれば被控訴会社の請求は控訴人等に対し連帯して八八九、五一七円及び之に対する昭和四四年一〇月二〇日以降完済に至る迄商法所定年六分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で正当として認容すべきであるがその余の請求は理由がないから棄却すべきところ、被控訴会社の請求を全て認容した原判決は失当であるから原判決を主文第一項の通り変更することとし、被控訴会社勝訴部分につき仮執行宣言を附するのが相当と認められるから、附帯控訴は之を認容し主文第三項の通り仮執行宣言を附することとし、訴訟費用、附帯控訴費用負担については、民事訴訟法第九六条、第九二条、第九三条、第九五条第八九条第九三条を適用して主文第二項の通り判決する。

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